DORFFER アップライトピアノ 1962年製



埼玉県さいたま市S様
修理ご依頼ありがとうございました。


今回も当社のHPをご覧いただきご相談くださいましたピアノ修理例です。
お客様よりご両親から50年近く前に買ってもらったピアノなので深い想い入れがあり、是非再生させたいとのお話を伺いまして、下見をさせて頂く運びとなりました。

ある程度年数の経過したピアノの状態を見る場合は一番大きなダメージを見つけ出すのが先決で重要となり、消耗部品では無い箇所にも補修が必要かどうか見極めなければなりません。
まず初めに音を出してみた所、調律が異状な狂い方をしていてそれが単に長年の放置による原因ではない事がすぐに分かる物で、業界用語としてはピンルーズ又はピンズルなどと言いチューニングピンが緩くなった為にその箇所の弦だけ極端に張力が下り、音階が破綻してしまっている状態でした。修理の方法としては、チューニングピンをもう2〜3MM打込む、ピンの側面に詰め物をする、又はオーバーサイズのピンに交換するなどで通常対処しておりますが、今回はそれを試みる余地がない位緩い箇所があり、その場でチューニングピンの刺さっている板が使い物にならないとの判断に至りました。残る手段としては、チューニングピン板の交換作業となってしまいます。この状態をお客様へ説明しその分修理費用も嵩みますとお話しましたが、ある程度は考えて(覚悟して)いたとの事でとにかくトータルの修理見積りを出してくださいと言われ算出し、ご検討した後にやはり修復したいとのお返事をいただきました。今回は消耗部品以外にもダメージが及んでしまっていたピアノの修理例です。





下記の演奏動画は、修復後のものです。

演奏者:阿部悟  リスト 「愛の夢」


修理明細
作業写真
工房にピアノが届き、入念なチェックをしながら解体作業を進めていきます。





アクションの方は、ブラケット、ハンマーレール、センターレール以外は新品パーツに全交換です。



弦やチューニングピンを取り外しました。
屋根板、親板などが外れていますが、外したと言うより剥がれてしまった物です。今後の木工作業がし易くなりましたが、そもそもの接着が良くないという事が言え原形を留めたまま綺麗に外れました。

組付時の支柱とフレームの位置出しの為、数ヶ所にマーキングしておきます。尚、4層のピン板という事がこの写真にてわかります。
 

フレームを降ろした(外した)所で、今回一番の問題のチューニングピン板です。
 




予想通りピン板その物の造りが雑な物でした。写真に亀裂の様な物が一直線にありますが、割れた訳ではなく貼り合せ部分です。始め(製造時)から隙間がある状態で接着されている物で、はみ出している接着剤の跡からそれがわかります。この隙間が貫通している箇所とその周辺のピンについては一層めの板は無も同前と言う事になりますので、2〜3層めの木で受け止めていた様です。ある時期からその2〜3層めにも劣化が始まりピンの弦張力に対する摩擦抵抗が負けて緩んでしまったのでしょう。これ以外にも各層で接着の剥がれなども多い為に、やはり交換せざるを得ない部分と言えます。
 
ピン板から支柱に12本の木ネジで留めている物でしたが、何とここも殆ど接着が効いていなかった為に、元型のままあっさりと外れました。
 






電動丸ノコにて新しいピン板をカットして角をかんなで落とします。板は独のピアノ部品メーカーより入手した物で、積層材の為充分な強度があります。
 
支柱に載せて見ました。良い感じです。 
 
ピン板が無い方が響板の修理及び塗装がやり易いので一旦中断しニスの剥がしをはじめます。
 


しかしまたここで接着関係の問題が浮上してきてしまいました。
響板にペーパーがけをしている最中に、何かワサワサと言った音が出てきます。始めはピアノを寝かしている台と支柱の接触部からであろうとあまり気にしていませんでしたが、何か変?なので響板の端を叩いた所、縁廻しが浮いている事が発覚しました。やはりしっかりと接着し直しが必要です。後で雑音の発生原因となります。
 


接着面を確認したい事もあり、一旦縁廻し(響板)と支柱を切り離しました。ほとんど釘だけで着いていた様ですので、剥がしたと言うより釘を抜いたと言った方が近い物でした。 
 


響板と縁廻しとが剥がれている所もあった為、しっかりと着け直しです。以外と響板、響棒、駒の作り及び接着は良く、ここだけ別会社が製作したのか?と思わせる物でした。 
 


支柱の一部でやはり写真の様に隙間のあるまま組まれていました。これも始めからの物です。 





 
角材をサイズに切って入れ替える事にしました。

 
支柱と縁回しの接着部分にベルトサンダーをかけて古い接着剤を極力取り除きます。新たな接着剤が食い付くようにする為です。 

ピン板を仮り付けしてフレームとの合性を見るのと、駒圧がどの程度か見ておきます。
写真は低音側部分でフレームの凹凸に合わせて、かえでの木を貼った物です。







フレームの裏側に塗料を塗り、ピン板に合わせて(載せて)ゴムハンマーで叩いている所でピン板側に塗料が付いた所をベルトサンダーで削って低くしていき擦り合わせます。チェーンブロックで上げる載せるを何回か繰り返して進めます。 

ピン板にボール盤でチューニングピンが入る穴を開けていきます。ピン穴が上方に3度の角度にしています。
 




穴あけの後、支柱にピン板を仮付けしてフレームを入れ弦圧調整します。実際に弦を張った場合の駒の高さを見て、高ければプラス何MM低ければマイナス何MMとか業界で言っています。
写真(上)は低音部分右側ですが糸と駒の間に隙間があるのでマイナスです。この状態で弦を張った場合でも、写真とは違い交差状に角度がついた2本のコマピンに引っ掛ける為、隙間自体は見た目には出来ませんが、弦が駒を押し下げる(密着する)力はゼロかマイナスとなりますので、弦振動を響板に伝える部分としてはやはり理想からはずれるものと言えます。
写真(中)は真上から撮った物ですが、やはり弦溝が僅かにしか着いていません。下の写真にはくっきりと弦跡が入っている正常な状態で、同じ低音の駒で左側にしか弦圧が掛かっていなかった事になります。又、このピアノの場合ある時期からこの様になったのではなく、製作時点でこの状態だった事がこの写真より分かります。




 
弦圧を出す為にフレームを下げる作を取ります。写真では電気カンナで木部を削って行き、フレーム側はディスクサンダーで削っている所です。 
 






こちらは中高音部の駒になります。低音側を下げると当然こちら側にも影響しますので、全体を見ながら修正します。
しかし、全体のバランスが取れません。中音部分も低い為フレームを下げると今度高音側が出すぎてしまいます。高音より中音の駒が高いのはいいのですがその逆は良くありませんので、高音側の駒を3MM程削る事にしました。コマピンを抜き取ってトリマー(電動工具)にストレートビットをつけて削っていきます。
 
 










コマピン上下方向の切欠きが無くなってしまう為、表面に黒鉛を塗った後にのみで落として(削って)成形し、次に新しいコマピンを打ちます。
写真(下)は響板塗装、フレーム塗装の後の物ですが、弦を張り始める直前に再度弦圧を確かめている所です。
 






響板の塗装で下塗り上塗りをしている所です。 
 




ピン板を支柱にボンドで接着し、ネジ留めしていきます。
 
フレームも塗装して本体に入れ、新しく弦を張った所です。
  次に親板の取付ですが、始めから接着するのではなく仮組をしてみてパネル類や鍵盤ぶたなどがスムーズに入るのか確かめています。また、接着する親板と支柱の平行が出ているかも、よ〜く見ます。ここの部分は木ネジで留めるのではなく、接着剤に100%頼る為にしっかりと着けたい部分です。
  元々親板の接着がかなり甘く簡単に外れてしまった物ですが、支柱が反っている為に一部分しか接着剤が効いていませんでしたので電気カンナで削って修正している所です。 
 


削って仮組して・・を繰返して良さそうな所で接着します。 
 


次に底板(ペダルがついている板)を取付ようとした所、フレームが当ってしまいピッタリ着きませんので木ネジが締まりきらない為、トリマーで逃げ溝を掘りました。 
  ピアノの内部に次はアクションと鍵盤を組込んでいきます。写真では組付の目安を立てる為、数ヶ所部品を仮組します。


今回のアクション修理はレール関係以外全交換です。同サイズの部品が現在も部品メーカーさんにて製造されていますので、ハンマー以外はそれを使用します。
 


独レンナー社のハンマーで、これから穴をあけてシャンク(細い丸棒)を接着します。 
 


ダンパーの組付です。
 


新ハンマーの接着の為、元の部品の取付位置を確認します。 
 

全ての部品の組付後に鍵盤アクション、ペダルなどのトータル調整(整調)をして弾き易いタッチを作ります。
次に修理中の最初の調律をした所、中音から高音にかけての音の伸びがとても良いもので、全体の音のバランスをとる為特別に何か作を講ずる必要は無く、最後の最後に良い楽器と思えた瞬間でした。演動画の方でも観ていただくと、その雰囲気が分かるかと思います。
お客様へピアノをお届けするまでに連日調律をして音の狂いを安定させます。

この度は、修理ご依頼誠にありがとうございました。今後もどうぞよろしくお願い致します。
 



下記の演奏動画は、修復後のものです。

演奏者:阿部悟  ショパン 「エチュード革命」